2002年度の吹奏楽コンクール日程が決まりましたのでご報告いたします。各地区大会で選ばれた代表が集まります全国大会分です。 第50回全日本吹奏楽コンクール全国大会 9月28日(土) 中学の部 普門館(東京) 9月29日(日) 高校の部 普門館(東京) 11月2日(土) 大学の部 大阪国際会議場 11月3日(日) 職場・一般の部 大阪国際会議場 あと、本年度の課題曲も次に決まりました 1:大編成:吹奏楽のためのラメント/高 昌帥(朝日作曲賞) 2:小編成:追憶〜ある遠い日の〜/岡田 宏 3:小編成:ミニシンフォニー変ホ長調/原 博 4:大編成:吹奏楽のためのラプソディア/足立 正 次に課題曲解説です (I) 吹奏楽のためのラメント 題名の通り、終始悲しみや嘆きの歌が流れ、時には感情が昂揚し、時には思いをころしたように、比較的遅いテンポで流れていきます。冒頭は、Hrn.とEuph.により、自由なリズムで悲しみを訴えるような動きが、中低音の楽器に支えられて現れます。この後に現れる全ての和音もそうであるように、音程をきちっと合わせ、Hrn.とEuph.の旋律は、芯のある太い音で自由な動きの中で主張したい。 打楽器と木管楽器による<の後に、Trp.とTrb.による深い悲しみの叫びが、全奏の5度和音に支えられて続きます。アクセントテヌートの指示のように太く十分響いた音の処理を心掛け、並進行による両者のオクターブは、完全に協和させます。テンポは一定させずに節度を持って揺れてください。(B)からは、冒頭の変形した動きが一枚リード楽器を加えて現れる。ユニゾンをよく合わせて<>を十分加えて(C)の静かな動きへと移っていく。(C)はHrn.系のドローンを伴って、一枚リード楽器を中心に思いを秘めた旋律が続く。ユニゾンをよく合わせ、<>を加えつつ指定の強弱は守ってください。感情の起伏が強弱で表されています。 (E)からは、中低音楽器による陰鬱な和音に、Trp.が哀歌を歌う。難しい和音ですが十分音程を合わせ、ソロを引き立たせたい。 その後楽器を替えつつ次第に音量を増し、(A)の動きが中低音楽器に再現され、長い上行旋律により徐々にクライマックスへと進んでいく。(H)からTutti で上行旋律を繰り返し、(A)の拡大したコラール的な動き、冒頭の再現と続き、大きなクライマックスを形成して終わる。全曲を通して、ユニゾンが多い旋律的な動きや、ドローンと和音はいずれも同属的な楽器が組み合わされています。音の協和は得られやすいものの、音程は十分合わせてください。テンポは全体を踏まえて各部分を決めてください。最後に、全体を太い音で処理すると共に、各種の発想記号の扱いは感情の変化と関連させて表現し、スケールの大きな音楽を作ってください。この作品は全体的に少し重く、速い部分がないことが惜しまれますが、最近の課題曲にはない後期ロマン的なスタイルで書かれています。また、色彩感の豊かさ、感情の多様性が、見事に表現されています。きっと後の世に残っていく名曲の一つになると、私は感じています。 (II) 追想〜ある遠い日の〜 遠い日を懐かしむように、中低音楽器に支えられた木管楽器の動きが、6/8のゆったりとした2拍子で始まります。ユニゾンの旋律は音程をよく合わせて<>を加えます。テンポの変化は poco rit.にとどめ、気持ちが僅かに揺れ動くように。和音は、各音のバランスを適正にし、完全に調和させます。 (B)の2小節前から中低音楽器と打楽器による軽やかなリズムに乗って、高音木管楽器群が現れ、Tuttiへと続いていく。軽快な中にのびのびと、硬い音になり過ぎないようにしたい。8分音符の伴奏型も拍ごとに和音が感じられるように、ほどよく響きを残す。 (B)の7小節から、徐々に音量を増すが、Leggieroを維持し、Feroceの指示もあまり荒々しくならない程度にしたい。 (C)からは、(B)の動きが中低音楽器で再現される。力まないで、マルカートに太く豊かな音で表現したい。これに絡む高音楽器は、リズムがきちっとかみ合うようにします。 (D)はRisolutoで前半の山を迎えます。指示のように、決然と全楽器とも十分な響きで演奏するが、各動きごとよく調整された扱いが必要です。その後は、徐々に音域を下げつつテンポを遅くし、静かにしていく。旋律の受け継ぎ、各部分の和音とのバランスを大切にし、徐々に気分が落ち着くようにしたい。 (E)からは、穏やかで優しい思い出を、3拍子の美しい旋律で表現します。静かな中に<>とテンポの揺れを加え、Trp.はコルネット的な柔らかい音が必要。これを支える中低音楽器の和音は、協和が重要なことはもちろん、各パートともカウンター旋律的に横の流れも失わないように<>のニュアンスを微妙に加えます。 (F)でこの部分の山を迎えるが、実にいい音がするように作られています。当然、各楽器群はいい響きで、また、各パートごと、同じ動きごと、音の調整が不可欠です。 その後、舞曲風な動きが始まるが、シチリアーナのリズムは、付点8分音符に重心をかけ、レガートではあるが躍動感が必要です。この部分は特に表に出る動きと他とのバランスに留意したい。各動きとも、よく調整された音で、音量の変化と音楽の流れが自然になることが重要です。 その後は、(B)が短3度上の調で再現される。表現法は前とほぼ同様ですが、僅かにテンポを前向きにし、音量と音の明快さを加えていきます。一旦テンポをAdagioに落とし、旋律を徐々に高音に移しつつ、和音パートを厚くし、(I)でこの曲の山を迎える。ここは唯一の劇的な部分なので、一人一人十分な音を響かせ、かつ各パートごと調整された豊かで太い音で、Allarg.をいっぱいにきかせたスケールの大きい表現を心掛けてください。その後は、徐々に音量を下げつつ冒頭の動きを回顧するように再現され、美しい音で消え入るように終わります。 最後に、作曲者は打楽器を膜鳴系・木質系・金属系にこだわって使い分けています。どの曲でも同様なように、打楽器が管楽器と同じ動きか、異なる動きか(この場合は打楽器を少し強調する)を見定めると同時に、同質系ごとにバランスをとることが非常に重要です。例えば(B)では、Timp.とS.D.、Casta.とXylo. のバランスを整えることです。加えて、Casta.はこの作品ではとても大切であることから、もし可能なら良質の楽器でいい音が出るような工夫をしてください。 (III) ミニシンフォニー 変ホ長調 この作品は、4つの短い楽章からなる、古典的な様式で構成されています。従って、この作品の演奏にあたっては、強弱、音の処理等は、ごく基本的な扱い、すなわち、美しい音で、整然とした合奏の組み立て、形式を踏まえた統一と対比を中心にまとめてください。第1楽章は、木管楽器による分散和音による第1主題で始まります。ごく標準的なマルカートで各音を処理し、ユニゾンの音程とリズムは完全に合わせてください。 (7)からの第2主題は、美しいユニゾンで、<>のニュアンスを加え、金管楽器の軽やかな伴奏に乗って歌います。 (12)からは展開部的になり、異なる動きによる掛け合いは、ほどよいマルカート、スタッカートの伴奏に乗って鮮やかに表現します。木管楽器の速い動きと、Hrn.とEuph.のリズミックな動きはきちっと合わせて主張します。 (14)からは、金管楽器を中心に主題が再現されるが、表現は冒頭とほぼ同様で、前よりはより力強さを加え、各楽器群の主題の入りがはっきり表に出るように心掛けたい。 (21)からのその後の部分も、前半とほぼ同様です。 (34)から、再び主題が2泊遅れのカノンで現れるが、表現は前とほぼ同様で、いくらかテンポを速めつつ、ffでマルカートにします。 第2楽章の冒頭は、落ち着いた2拍子で美しい音でまとめてください。この際、主旋律の2分音符は重心を置き、けっして表現が平板にならないように、ニュアンスを加えます。Euph.等の分散音は、柔らかいマルカートが主旋律を引き立てるでしょう。 (9)からは幾分前向きに、Trp.Hrn.Trb.の各1st.は、音程をきちんと合わせて、柔らかいマルカートで美しく表現してください。伴奏パートとのバランスも重要です。その後、冒頭の主題が各楽器に現れますが、表現は前の部分とほぼ同様です。ただ、音が徐々に厚くなってくることから、表に出すセクションと他とのバランスに留意し、よく調整された合奏にまとめてください。 第3楽章は、メヌエットにしては少し速いが、3拍子の拍子感でバロック的な音の処理を心掛け、強弱の対比と、(21)からの弱奏のレガートとのコントラストが重要です。(37)からは、金管楽器を中心に主題が再現されるが、マルカートな処理を心掛け前向きなテンポで活気を出します。この作品では、各楽章の間はごく短い方が望ましいが、次へは特にattaccaで進んでください。 第4楽章のロンドの主題は、8分音符を用いた、速く軽快な動きです。伴奏部と縦をよく揃え、弱奏でも音の立ち上がりが明快になるよう心掛けてください。この動きは、その後にfやffでも再現されるが、音量と勢いを増すこと以外は、冒頭とほぼ同様です。 (21)からは、この楽章のコントラストの部分です。Trp.とHrn.のユニゾンは、音程をきちんと合わせて美しい音で<>のニュアンスを加えて、レガートの中で伸びやかに表現します。これらを支える伴奏部の和音は、音を保ってよく協和させます。終部は徐々に音量を増し、大きなクライマックスを形成します。しかし、あくまでも美しい音でまとめてください。全体に、どの楽章とも、同じ動きは各楽器の音を十分に統一して揃え、旋律、和音、低音ともに美しい音で、合奏全体がよく協和させることが基本となります。その中で、強弱、アーティキュレーション、速度等のコントラストを生かすことです。 (IV) 吹奏楽のためのラプソディア この作品は都節音階を基調とした、幻想曲風で自由な形式で書かれています。ただ、用いられている楽器は、打楽器を含めて、一切和楽器を使用していません。Picc.とEuph.により、2オクターブのユニゾンでゆったりと静かに始まります。両者の音程は完全に合わせ、音色も溶け合うようにしてください。 (A)からは、少しテンポを上げ、低音のリズミックなオッシナートに乗って、木管楽器が日本的な旋律を歌います。この旋律は短・短・長のフレーズで構成されていることから、26小節からは、特に<>を加えることと、旋律が4度の並進行となっており、パートごと音程をよく合わせ、いわゆる、裏メロもほどよく主張します。 38小節から(A)が音量を増して反復されるが、表現は(A)とほぼ同様です。全体に太く豊かな響きで演奏したい。そして、56小節から前半の山を形成します。ここは、fffではあるが、テヌートの指示があることから、各楽器ともに音の立ち上がりを十分に保持して、太く芯のある音で演奏します。また、各楽器ともに4度、5度の並進行で書かれていることから、主旋律を表に出すものの並進行のパートもほぼ対等になるように、楽器ごとバランスを整えてください。 (E)はゆったりとした自由リズムの旋律がPicc.とHrn.により、ブリッジのように挟まれます。2オクターブのユニゾンは冒頭と同様に表現します。 (F)から速度を増し、混合拍子による動きがPicc.のソロで始まり、これが一種のオッシナートとなって、リズミカルに流れます。 (G)からは、旋律、和音ともに、パート内のバランスを大切にしつつ、いい音で動きが感じられるようにします。 (H)からは、前のテンポがうまく持続するように留意し、十分に響いた太い音で金管アンサンブルを作りたい。 (I)からは(G)と、(J)と(K)は(B)からとほぼ同様。ただ、(J)から5小節間の動きは、(G)の再現であるが、ffでマルカートの指示の通り、音の立ち上がりと余韻、そして次から次へと音の勢いを失わないような表現が求められます。パート内でのバランスは前と同様に重要です。(L)からは、展開部ともいえる部分で、複雑な動きとそれらの構成、受け渡し等、音楽の流れが滞らないことです。そして、表に出すセクションを常に意識し、音の処理はアクセント、テヌートの指示に留意しつつ、明快な発音を心掛け、各楽器の響きを大切にしてください。テヌートは、音を保持するだけでなく、重心をかけるように処理することを薦めます。8分音符の∧は、けっしてスタッカートにならないように、明快な発音と同時に、短いながらも響きはほどよく残したい。 (N)からは、オッシナート的なカウンター旋律を加えて(B)が再現される。主旋律と対等なくらいのバランスで主張します。 (O)からは、終部の山に向けて徐々に盛り上げていきますが、どのパートともに同じ動きが繰り返されます。特にHrn.は苦しいところですが,勢いと迫力を出したい。そして、各楽器ともにパート内バランスに留意して、それぞれによく協和させたい。 (Q)は(E)、(R)は(F)を回顧するように、静かに再現した後、打楽器による劇的な<でfffに盛り上げ、勢いよく終わります。この部分は、各楽器とも全力で、かつ硬めの音で演奏したい。 この作品は、日本伝統音楽の音階(音組織)で作られています。一方、合奏で厚みを作るために、音の重なりの工夫を様々に行っています。それらの手法の一つとしてオクターブ、4度、5度の重複が多用されており、この点は再三触れてきましたように、パート内バランスが非常に重要となります。私の考えでは、オクターブは下のパートを1.5倍程度にし、4度,5度の場合は下のパートを上とほぼ対等なくらいにすることが、いい合奏の響きを作ることとなるでしょう。もちろんこのことは、音程が協和してはじめて効果が発揮されます。
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